祖母とお別れしました

最後に会ったのはいつだったか。
夏に会ったときベッドの上で笑っていた
もういいから帰りな
そう何回も言った
また来るねと家族が言った
冬に会ったときベッドの上で寝ていた
起きる時間が少なくなっていることを聞いた
だんだん呆けていることも知っていた
それでもまた来るねと言った
一年ほど会ってなかった
親はその間に二度お見舞いに行った
泣くほど父親と一緒に居たくなくて
私は会いに行けなかった

昨日突然の電話が入った
祖母が死んだ
最期に会えず、もう死んだことだけを告げられた
病院に向かった
家族をみんな連れて行きたかったけど
弟はまだ学校だった
だから父親の運転で、母と病院に向かった
長い道のりの中気を紛らわしている母の横で
昔のことを思い出した
でも泣いてしまいそうだから考えるのを止めた
病院に着いたら手を握ってあげようと思った
ただ寝ていたときと同じように手を握ってあげようと思った

病院に着いたら叔父がいた
母の弟さん。
祖母は病院のなか
施設のなか寝ていたベッドで横になっていた
新しい浴衣を着せてもらっていた
目と鼻に綿が詰められていて息をしていないことを教えられた
握ってあげようと思っていた手は
布団のなか胸の上にあった
考えれば当たり前なのに
いつものように手を横において寝てはいなかった
母は祖母の顔を見て何度も言った
どうして　こんな　突然
叔父は何度も言った
一ヶ月前から具合が悪いのはわかっていた
施設の職員さんが説明をしてくれた
最期は苦しまなかったこと。
我慢の人だったこと。
別の職員さんも来た
私は涙をこらえて鼻をかんだ
涙がこぼれそうだったけど
堪えてる母の前で泣きたくなかった
祖母は生前から葬式をあげないと決めていた
体は献体に出す
だからもう祖母に会えない
連れて来れなかった家族は最期の顔も見れない
叔父は祖母の決めたことだからと何度も言った
わかったのに私はついお骨は返してもらわないのと聞いた
母と叔父はそうだよと言った
叔父は代わりに祖母の髪をもらったと言った
母にも私はそうした方がいいんじゃないと言いたかった
でも祖母の髪を切ってほしくなかった
献体に出す祖母の体は化粧もされない
普段の顔だった
その髪を取るなんてしたくないししてほしくなかった
祖母を受け取りに車が来るのを
ベッドのそばでみんな待った
母と叔父は昔話をした
幼いころの思い出、祖母の思い出
私はポケットティッシュの柄を見つめながら話を聞いていた
車遅いね
誰かがそんな言葉を呟くたびに叔父は言った
まだ母さんがいなさいって言ってるんだよ
そう言って顔を覗き込んでいた
手すりが何度も高い音を立てた
その内に車が来て
綺麗な棺おけが運ばれてきた
祖母は白い棺おけで白い服を着て白い顔をしていた
雪が降る中
棺おけに入った祖母は黒い車に乗せられていった
誰もなにも言わないなか車は走り去った
見えなくなってから母は職員さんに頭を下げた
お世話になりました
先生にも頭を下げた
ありがとうございました　と
急いでブーツを履いてる頭で繰り返し思った
もう終わっちゃったんだ
祖母はいなくなった
母が言ったように呆気ないと思った

さよならも言えなかった
ありがとうも言えなかった
幼い自分は自分勝手で
感謝の気持ちも言わなかった
いつまでも元気だと思っていた
病院に入ってからも昔みたいに
元気に笑って昔みたいに
いつか戻ると思っていた
さよならも言えなかった
けどもう言えない
ばあちゃんからさよならしちゃった
今でもまだ病院のベッドの上で
いつもみたいに寝てる気がする
けど死んじゃった
もうお別れしちゃった

こんなことを書くの
ためらった
パソコンに突っ伏して
しばらく考えた
けど葬儀もなにも残らない
祖母へ
想ったことだけでも残しておきたかった
誰も読まなくてもいい
誰も知らなくてもいい
ただこの事実を残しておきたかった

会っておきたかった。